腎臓を透明にして3次元で糸球体の異常を診断 ―組織透明化技術で正確に病変を検出!―
プレスリリース要約
- 研究の背景
腎臓は血液をろ過し、体内で産生された老廃物を尿中に捨てる臓器として知られています。この血液のろ過については、腎臓の表面の皮質にある糸球体(注1)という装置で行われています。糸球体は主に毛細血管の塊であり、血液をろ過して尿の元を作成しています。
しかしながら、糸球体が障害を受けると、タンパクが漏れて、尿検査でタンパク尿として検出されるようになります。そして、糸球体の障害がさらに進むと、尿の生成機能が停止してしまい、腎機能の悪化へとつながります(図1)。そのため、タンパク尿が出て腎機能が低下している場合の診断や治療方針の決定には、腎臓の組織を採取する腎生検検査を行い、糸球体の状態を詳細に解析することが必要です。
一方で、腎生検によって採取した標本の中の糸球体を観察する際に、標本内に診断に必要十分な糸球体数を得られず、診断を確定できない場合があります。特に、重症な糸球体の病気では、半月体(注2)などの病変部位が腎生検の標本内に存在するかが診断や重症度の判定に大きく直結しますが、そのような病変部位が見つけられず、正確な診断につながらないことがあります。
そこで、腎生検組織を正確に解析して診断するため、2次元的に一部を解析するのではなく、生検組織内を3次元で網羅的に解析できれば、より詳細・効率的に腎生検組織の解析を行え、正確な診断と病期予測ができると考え研究を行いました。
- 研究の結果
以下の①~③の結果より、ヒトの腎生検組織を透明にして3次元で解析すれば、腎生検組織を網羅的に解析できるため、病変部をより正確に検出できることがわかりました。
①→CUBIC(注3)を始めとした組織透明化技術によって、ラットやヒトの腎組織を透明にすることができ(図2)、なおかつ糸球体中の微細な構造(ポドサイト(注4)の構造)を保持したままで3次元での糸球体の解析が可能であることがわかりました。
②→ラットの半月体形成性糸球体腎炎モデル(注5)に対して、2次元での解析と組織の透明化を用いた3次元での解析を比較しました(図3)。その結果、3次元で解析すればスライス1,2,3を含めて糸球体全体を解析するので、半月体形成性糸球体と確実に診断できますが、一方で旧来の2次元でスライス3のみを解析した場合には、正常糸球体と誤って診断する可能性があり、3次元で解析した方が病変の見逃しを防げることがわかりました。
③→ヒトの腎生検組織でも同様に透明にすることができ、かつ常温で数年以上経過した腎組織でも透明にして3次元化できることがわかりました(図4)。実際に3次元で解析すると、多くの糸球体を一度に観察することができ、病変部をより正確に検出することが可能になりました。
- 今後の展開:慢性腎臓病の正確な診断へ
腎生検組織を透明にして3次元で解析することによって、多くの糸球体が一度に観察することができるため、今後より正確な腎臓病の診断につながると考えられます。
- 用語解説
注1)糸球体: 腎臓で血液をろ過して尿を作る際に血液を濾過する部分。毛細血管の毛糸玉のような構造をしているので糸球体と名付けられた。
注2) 半月体: 糸球体に重度の障害が生じた際に、腎生検組織上で観察される病変。半月体の検出数が多いほど重症とされ、治療に対して抵抗性を示すことが多いとされている。
注3) CUBIC: Clear, Unobstructed Brain/body Imaging Cocktailsの略。2014年に開発された透明化技術(Susaki et al. Cell. 2014;157(3):726-39.)。本研究では、改良版として報告された技術を使用(Tainaka et al. Cell Rep. 2018;24(8):2196-2210.)。
注4) ポドサイト: 腎臓の糸球体では、毛細血管から血液の成分がろ過されて尿が作られる。この時、血液中の蛋白が漏れ出さないようにろ過の障壁となり毛細血管の表面を覆っている細胞がポドサイト。
注5) 半月体形成性糸球体腎炎モデル: ラットやマウスなどの実験動物に対して、前述の半月体と呼ばれる病変を腎臓の糸球体に起こす実験動物モデル。
- 論文情報
論文タイトル:Beyond 2D: a scalable and highly sensitive method for comprehensive 3D analysis of kidney biopsy tissue
著者:Hiroyuki Yamada, Shin-ichi Makino, Issei Okunaga, Takafumi Miyake, Kanae Yamamoto-Nonaka, Juan Alejandro Oliva Trejo, Takahiro Tominaga, Maulana A. Empitu, Ika N. Kadariswantiningsih, Aurelien Kerever, Akira Komiya, Tomohiko Ichikawa, Eri Arikawa-Hirasawa, Motoko Yanagita, and Katsuhiko Asanuma
雑誌名:PNAS nexus
DOI:https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgad433
- 研究資金について
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)(23H02923)などの支援を受けて行われました。
引用元:PR TIMES