渋谷のNPOが社会的養護出身者の生の声を拾い地域に届ける
プレスリリース要約
NPO法人フリースクールまいまい(所在地:渋谷区。代表:鴻池友江。以下、フリースクールまいまい)は、2024年2月21日(土)13時30分~15時30分に「より良い社会的養護を考える」と題した企画を行いました。社会的養護の出身者として声を挙げてくれたのは「IFCA japan」(*1)でユース(*2)としての活動を続ける20歳代の若者2人です。開催場所は、京王新線幡ヶ谷駅から徒歩5分程度の区民施設。冷たい雨のふる昼下がりでしたが、当日キャンセルはわずか2名という高い出席率、また、当日の飛び込み参加もあり、熱気ある2時間のイベントとなりました。
《社会的養護とは》
『社会的養護』というのは何等かの事情により生まれた家庭で生活することが難しくなった子どもを、国と大人の責任で護り育てていく制度のことを指します。「乳児院」「児童養護施設」「心理治療施設」「児童自立支援施設」などさまざまな形で子どもの育ちを支えており、里親(養育家庭)も『社会的養護』に含まれます。社会的養護の理念は『こどもの最善の利益のために』と『社会全体でこどもを育む』です。「最善の利益」を考え、「なるべく家庭に近い環境」など、行政としては精いっぱいの社会調査や議論を重ね措置を講じます。しかし現実的には「入れる施設に行くために住み慣れた町を離れ、転校しなければならない。」「少人数あるいは養育家庭での生活が合うと思われる子どもが大きい集団での生活を送ることとなり、心理的安全性が確保できなくなる。」など、多種多様な課題は山積みです。それでも、子どもを引き受けた施設あるいは養育家庭では、一人一人の「個」と向き合い、どうしたら安心感が高まるのか、どうしたら将来の不安を軽減できるのか、と日々大人も奮闘しています。
《社会的養護を出たあとに起きる生きづらさ》
長い間、彼らが社会的養護のケアを離れた後に、どうなっていくのかという事が公に調査されて来ませんでしたが、2016年の児童福祉法改正を受け、2020年に初の全国調査が実施され、ケアを離れた後に本人たちが感じている困難さが明らかになりました。(*3)
本人記述のアンケート内に自由記述があり、そこには「学費や生活費の心配」や「就職したが病気で休職」「健康面の不安」といったことが並びます。奨学金を得てまだ学生のうちにアパートを借り、アルバイトをしながら学業に励むという大変さとか、大学への進学は諦めて就労したけれど、環境と暮らしの二重の変化に心身の調子を崩すといったことも珍しくありません。しかし、「辛いな」「しんどいな」と感じた時、すぐに気軽に相談出来る先が無い、ということに、ここでようやく直面することになると、「孤独」の二文字が大きな脅威となって襲い掛かってくるのです。つい数年前まで生活をした施設では常に後から入ってきた子どものケアに手一杯の職員の姿が目に浮かびます。また、職員の入れ替わりが早い場合には、数年後に訪ねても「自分が安心して話せる職員」は少ない(居ない)ということが起こります。里親宅で生活した場合は、信頼関係が結べれば実家のように帰る場所が出来るでしょう。しかし関係性の不調によって離れた場合はもう立ち戻る場が無い、ということも起こるかもしれません。
当企画の中で語られたのは、「施設で生活している間は精神科医による治療(*4)を受けられたが、社会的養護からひとたび外れると、同じ医師の治療を継続的に受けることが出来ない」という医療的問題、また「(虐待者である)実親からの追跡を防ぐために毎年役場で手続きをしなければならず、その都度辛い記憶が呼び戻される。」といった苦労も語られていました。
《保護直後から大人が意識出来ること》
当企画内では、保護から始まり施設で生活する中で感じた様々な不全感についても当事者からの語りがありました。「一番不安な保護直後、これからどうなるのか、今は何のための時間なのか、分かるように説明して欲しかった。」との言葉からは、至極当然な『知る権利』や『選択の権利』が保障されていない実態が聞き取れました。また、「虐待者の実親と1対1で面会させられた。」「ケアを離れるまでに100万貯めないといけなくて『勉強よりバイトをしろ』と言われる生活。」「馴染めない輪に入って過ごせと言われた。」など、本人の気持ちを拾う前に大人が(本人のために、と思っての発言だったにしろ)一方的に指示していることで、当事者が心を固くしていく経緯が分かりました。(*5)
会場からは、「自分に起きたことを発信することが負担にならないか?」との心配の声があがり、それを受けた当事者からは「前に立って発表する形ではなく、当事者だけで語って、それをまとめる方法もある。それぞれに合った方法と、自分のペースで行っている。」との回答がありました。また、「声を出す段階に至っていない若者も多くいるのでは?」との問いも挙がり、当事者は「IFCAの中でもその話題はよく出ている。どう支えていくか考えている。」と回答していました。このような具体的で深みのあるやり取りが続き、地域住民として参加してくださった方からは「地域や一般家庭が出来ることって何でしょう?」との質問をいただき、当事者からは「色々な家族の形があることをみんなに伝えてほしい。」との回答があり、今すぐ私たち大人が出来ることを再確認しました。
《フリースクールまいまいに出来る事》
会が終る頃には冷たい雨がすっかり止み、虹が出ていそうな青空が見えていました。私たちの住む日本、特に東京では、まだ子どもが集団で過ごす施設が多く存在し、養育家庭の割合が少ないため、地域では「社会的養護」という言葉に馴染みのない人が圧倒的多数なのが現状です。しかし、国をあげて、社会的養護の中の「家庭的養護」の占める割合を増やそうとしている今だからこそ、地域の方々に「社会的養護」のことを知っていただく機会を多く作りたいと考えています。
フリースクールまいまいで運営している場所(いるか家)は、社会的養護の出身者が羽を休めに立ち寄れる場にもなっています。月に一度程度、ケアリーバー(社会的養護の出身者のことを指します)を呼び集めて、食事会を計画しています。こうした活動の中で、ケアリーバーが発する小さな心配事を拾い、適切な社会資源を紹介するなどしながら継続サポートをしていきます。そして、地域の方に対してこのような若者の存在を当たり前に受け止めてもらえるよう、情報発信をし続けて参ります。
*1)IFCA(International Foster Care Alliance)は、日米の社会的養護改革を目指して活動するNPO。ユース、ケアギバー、治療者の3本柱で活動を展開している。
*2)ユースはIFCA で社会的養護の当事者として発信や政策提言を行っている若者の呼称。
*3)【令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 児童養護施設等への入所措置や里親委託等が解除された者の実態把握に関する全国調査】乳児院,児童養護施設,児童心理治療施設,児童自立支 援施設,里親委託家庭,自立援助ホームが対象。本調査の対象20,690人のうち、実際に調査票を案内できたのは7,385人,回答者は2,980 人とのことで、ケアを離れた後にいかに暮らしていた場や人と繋がっていないか、ということの問題も同時に浮き彫りになった。ちなみに調査案内者数に対する回答率は 40.4%。
*4)社会的養護の対象となる子どもの8割は何等かの虐待を経験している。心の傷は様々な形でその後に生活に影響を及ぼすため、精神科的なサポートが必要となる。
*5)こども家庭庁が創設されたことで今は「オンブズマン」を導入して、子どもの声を聞こう、という流れが出来てきて、各所で子どものために大人はどうすべきか?という検討がなされています。
<団体の情報>
NPO法人フリースクールまいまい
設立(登記):2002年9月5日
引用元:PR TIMES