タイムリミットは7日間。自分を殺した犯人を見つけ、内戦を終結に導くことができるのか! ブッカー賞受賞作、『マーリ・アルメイダの七つの月』を12月26日に発売。
プレスリリース要約
上巻 https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309208954/
下巻 https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309208961/
■2022年ブッカー賞受賞。怒濤の魔術的ミステリ、誕生!
本書は、突然死後の世界で目が覚めた主人公が、現世に干渉できる7日間の間に、自分を殺した犯人を探すため、そしてスリランカの内戦を終わらせるために奮闘するタイムリミット・ミステリ。生者と死者が入り乱れる狂乱と混沌の世界を描く、圧巻のブッカー賞受賞作(2022年)です。ゴーストストーリーであり、フーダニットであり、ロマンスでもある本作は、痛烈な政治風刺とユーモアが入り混じった、ジャンルの枠を飛び越えた長編小説。海外の書評などではサルマン・ラシュディの『真夜中の子供たち』やガルシア・マルケスの『百年の孤独』といったマジックリアリズムの流れを汲む作品としても紹介されています。
著者はスリランカ出身の作家、シェハン・カルナティラカ氏。デビュー作『Chinaman: The Legend of Pradeep Mathew』(未邦訳)でも数々の賞を受賞。本書は著者の第2作で、構想から14年の歳月を費やして書かれました。ブッカー賞受賞時のインタビューでカルナティラカ氏は、アメリカ人作家カート・ヴォネガットに一番影響を受けたとした上で、本作に関して「ヴォネガットが人類と歴史の野蛮さに感じた嫌悪感は、私が自分の美しい島とそれを破壊した考えなしの愚か者たちに感じた幻滅と共鳴した」、「ヴォネガットは常に(執筆の)伴走者だった」と述べています。ヴォネガットファンにも是非読んでいただきたい作品です。
世界27か国で出版が決定している世界文学の新星による超大作『マーリ・アルメイダの七つの月』が、いよいよ日本に上陸します。
*ブッカー賞:イギリスの文学賞で世界的に権威ある文学賞の一つ。毎年、その年にイギリスで出版された最も優れた長編小説に与えられる。
■あらすじ
1990年、三つ巴の内戦が激化の一途をたどるスリランカ・コロンボ。
戦場カメラマンにしてギャンブラー、放埒なゲイで皮肉屋のマーリ・アルメイダは、ある日冥界で目を覚ました。なぜ死んだのかは思い出せないが、死の直前、内戦を終わらせる写真を撮ったことは覚えている。なんとしてもその写真を発表したいと願うマーリだが、冥界の規定により彼が現世に干渉できる時間は7晩だけだった。
奮闘するマーリの前に立ちはだかるのは、復讐を誓う青年の霊、爆破テロで死んだ博士、冥界最凶の邪神、政府の暗殺部隊、怪しい慈善団体──。
あの世もこの世も巻き込んだ血なまぐさい狂騒を駆け抜けて、マーリはタイムリミットまでに見事目的を達成することができるのか……。
■推薦文
あなたはこの物語で、人間の悲劇的な愚かさと、目も眩むような愛を目撃することになる。
──西加奈子(作家)
最高にグルーヴィーな語りのリズム。主人公マーリ(の幽霊)と一緒に知られざるスリランカの闇を突っ切った。
──佐藤究(作家)
全ての諍いは死者たちの呪いから始まる。時にフィクションは現実の暴力に無力だ。が、この悪夢の旅はどうだ、シュールな笑いで飄々と死体の間をすり抜けて行く。これはすぐ間近に迫る我々の明日の物語だ。
──幾原邦彦(アニメーション監督)
強烈なエネルギー、悲しいユーモア、胸が張り裂けるような感情。そして、歴史が人々へしたことへの燃えるような怒り。
──「ガーディアン」紙
■物語の舞台
内戦下のスリランカ、特に熾烈を極めた1990年がこの小説の舞台です(スリランカの概要と内戦については次項もご覧ください)。ヨーロッパによる植民地政策の余波、隣国インドの影響、民族や組織間での抗争と政府による弾圧などで、近年までスリランカは、多くの犠牲者をうむ混乱の中にありました。
■物語の背景――スリランカの概要と内戦(背景を知らなくても、本書をお楽しみいただけます)
スリランカはインドの南に位置する島国です。外務省ウェブサイトによれば、2021年現在、人口は約2216万人。うち約75%がシンハラ人で、その大半が仏教徒、約15%がタミル人で、多くがヒンドゥー教徒です。残る10%をイスラム教徒のムーア人やヨーロッパ系の植民者の血を引くバーガー人などや先住民族が占めています。長年、これらの民族は大きな衝突もなく共存してきました。この状況を変えるきっかけとなったのがヨーロッパ諸国による植民地化で、16世紀にはポルトガル、17世紀にはオランダ、18世紀にはイギリスが侵攻。支配は1948年、セイロンがイギリス連邦内の自治領として独立するまで続きました(完全独立し「スリランカ」と改称したのは1972年)。
独立直後から1970年代にかけて、シンハラ人のエリート層が要職を占める政府は、シンハラ語の公用化や仏教保護政策によってシンハラ人を優遇するいっぽう、タミル人の市民権をはく奪。これに反発したタミル人による分離独立運動が興り、過激派は武装組織を結成、国内での反政府テロ活動を激化させました。その代表格が1976年設立の〈タミル・イーラム解放の虎(LTTE)〉です。そして1983年、シンハラ人兵士13名がタミル人に殺害されたことが引き金となって、シンハラ人暴徒が多数のタミル人を虐殺、以後LTTEと政府軍は全面的な内戦に突入します。
1987年、スリランカ政府の要請を受けたインドが平和維持軍を派遣し、LTTEとの仲介に介入。しかしこれが共産主義を掲げるシンハラ・ナショナリズム過激派人民解放戦線(JVP)を刺激します。JVPは反インド・反政府を表明して暴動を起こし、JVPの指導者が1989年に殺害されるまでの2年間に市民含め2万人以上が犠牲に。
その後も政府軍とLTTEの戦闘は激化し、この内戦は2009年、政府軍がLTTEの最高指導者を殺害して勝利宣言を出すまで26年間にわたって続きました。総死者数はじつに10万人を超えたとも言われています。また、この内戦の間の2004年には、3万人余りの犠牲者を出したスマトラ沖地震によるインド洋大津波にも見舞われています。
内戦後、国内情勢の安定によって成長を加速させたスリランカですが、現在は深刻な経済危機に陥っています。原因は慢性的な貿易赤字や財政政策の失敗に加え、コロナ禍による観光収入の激減です。2022年には政府に対する国民の不満が爆発、暴動が発生して大統領が国外逃亡し、首相が国家破産を宣言する事態となっています。
なお本書は1990年、つまり政府軍とLTTEとJVPの三つ巴の戦闘、報復合戦により、スリランカが特に混迷をきわめた時期を舞台としています。
*本項は、訳者あとがき(下巻収録)の一部を再編集したものです。
■著訳者紹介
シェハン・カルナティラカ(Shehan Karunatilaka)
1975年生まれ。作家。スリランカ・コロンボに育ち、ニュージーランドの高校、大学を卒業後、フリーランスのコピーライターとして活動。2010年刊行の初長編作品『Chinaman: The Legend of Pradeep Mathew』が旧英国領の優れた小説に与えられるコモンウェルス賞ほか、DSC南アジア文学賞、グラティアエン賞を受賞。2022年、長篇第2作である本作でブッカー賞を受賞し、内戦下のスリランカの闇を皮肉とユーモアをもって描いた傑作として世界的に高く評価された。
山北めぐみ(やまきた・めぐみ)
翻訳者。東京都生まれ。大学では詩の創作を学ぶ。おもな訳書にフェリシア・ヤップ『ついには誰もがすべてを忘れる』、ダイアン・レイク、デボラ・ハーマン『マンソン・ファミリー 悪魔に捧げたわたしの22ヶ月』、マーゴット・リー・シェタリー『ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち』(以上、ハーパーコリンズ・ジャパン)などがある。
■書誌情報
書名:マーリ・アルメイダの七つの月(上・下)
著者:シェハン・カルナティラカ
訳者:山北めぐみ
仕様:四六判/上製/
上巻288ページ、下巻312ページ
初版発売日:2023年 12月26日
価格:上巻 定価2970円(本体2700円)
下巻 定価3080円(本体2800円)
ISBN:上巻978-4-309-20895-4
下巻978-4-309-20896-1
引用元:PR TIMES