美容習慣に伴うまつ毛のダメージ現象を解明 ~内部タンパク質の流出に対し、補修成分の効果を確認~

プレスリリース要約

株式会社コーセーと株式会社ミルボンは、まつ毛のダメージに関する研究を共同で行い、美容習慣によるまつ毛内部のタンパク質流出を発見し、補修成分の効果を確認。2023年繊維学会研究発表会で成果を発表。物理的・化学的カールによるまつ毛の損傷、化学的カール履歴のまつ毛でのタンパク質流出を確認。補修成分の効果も検証し、まつ毛のダメージを補修する製品の開発を進める。
 株式会社コーセー(本社:東京都中央区 代表取締役社長:小林一俊)は、美容室向けヘアケア・化粧品メーカーの株式会社ミルボン(本社:東京都中央区 代表取締役社長:佐藤龍二)と共同で、まつ毛のダメージ現象を捉える研究に取り組みました。その結果、美容習慣に伴うダメージとして、まつ毛内部のタンパク質が流出することを見出しました。さらに、そのようなまつ毛に対する補修成分の効果を確認しました。本研究成果は以下の学会で発表致しました。

【外部発表】
発表学会:2023年 繊維学会研究発表会
発表タイトル:化学的・物理的処理に伴うまつ毛の特性変化
発表日:2023年11月27日

【研究の背景】
 まつ毛は目元の印象を大きく左右することから、長く、太く見せる需要は高く、まつ毛専用の美容液等が多く上市されています。また、まつ毛を上向きにカールさせるために、アイラッシュカーラー(*1)を用いてまつ毛を物理的に変形させる化粧法が一般化しており、化学的処理(*2)によってまつ毛をカールセットする手法も存在します。
 これらの手法は少なからずまつ毛に負担をかけることが予想されますが、これまでその影響についての詳細な研究はあまり行われていませんでした。しかしながら、美しく健やかなまつ毛を保ち、上向きにカールさせたまつ毛で華やかな目元の印象を楽しみ続けていただくためには、美容習慣に伴って生じるまつ毛のダメージを詳細に捉え、適切なケア方法を確立する必要があると考えました。
 そこで今回我々は、まつ毛を上向きにカールさせるための物理的・化学的手法が、まつ毛に与えるダメージについての研究に着手しました。世の中に先駆けた研究開発で新しい化粧品を生み出し続けるコーセーと、美容室専売メーカーとして毛髪研究に長年取り組むミルボン、互いの研究領域の強みを活かすことで、ダメージ現象の解明と、適切なケアを行うための補修成分の選定に取り組みました。

【研究の成果】
1.物理的・化学的カールによるキューティクルの損傷を確認
 物理的・化学的にカールさせる手法がまつ毛に与える影響を調べるため、電子顕微鏡での観察を行いました。その結果、繊維形状の変形や表面のキューティクル損傷が見られ、特に化学的カール履歴あり群ではキューティクル損傷が顕著でした(図1)。

              図1 電子顕微鏡での典型的な観察像

2.化学的カール履歴あり群では、まつ毛のタンパク質が流出していることを確認
 電子顕微鏡での観察で特に損傷の激しかった化学的カール履歴あり群のまつ毛では、表面のキューティクルだけでなく、まつ毛内部にまで影響を生じているのではないかと考えました。
 まつ毛は頭髪と同様、そのほとんどがタンパク質で構成されています。頭髪においては、化学的カール処理によるダメージでタンパク質同士の結合が切れ、その後日々の洗浄によってタンパク質が髪の外に流出してしまうことが知られています。タンパク質の流出は、毛髪繊維の強度低下を招き、髪の弾力やハリコシが失われることにつながります。
 今回、まつ毛内部のタンパク質の状態を顕微FT-IR法(*3)によって調べたところ、化学的カール履歴あり群のまつ毛ではタンパク質量が少なくなっていることがわかり、タンパク質がまつ毛の外に流出していることが示されました。またその結果について、大型放射光施設SPring-8(*4)のBL43IR(*5)を用いた詳細な可視化を行うことでも確認しました(図2)。

      図2 カール履歴なし群と化学的カール履歴あり群のまつ毛内部のタンパク質分布
 タンパク質のアミド結合*6に由来するピークの強度を解析した結果、化学的処理による流出が示された。

3.まつ毛に対する補修成分の効果を確認
 内部タンパク質の流出に対応するため、補修成分の検討を行いました。化学的処理と洗浄処理を行ったダメージまつ毛に対し、タンパク質の材料であるアミノ酸から作られ浸透性に優れた成分ジラウロイルグルタミン酸リシンNaを1,3-ブチレングリコールと共に作用させたところ、成分がまつ毛の内部にまで浸透したことを示す結果が得られました(図3)。

            図3ダメージまつ毛に対して補修成分を作用させた結果
    補修成分を作用させたまつ毛ではアミド結合に由来するピークの強度が向上しており、
アミド結合を有するジラウロイルグルタミン酸リシンNa等の成分がまつ毛内部に浸透していることが示された。

【今後の展望】
 まつ毛を上向きにカールさせる際のダメージを補修し、長さや太さだけでなく、理想のまつ毛デザインを楽しみ続けられる製品の開発につなげてまいります。

《用語解説》
(*1)アイラッシュカーラー
まつ毛を挟み、物理的に変形させる専用の器具のこと。

(*2)化学的処理
専用のクリームを用いてまつ毛をカールセットする手法。一般にまつ毛パーマやまつ毛カールなどと呼称される。なお、日本では医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)に基づき、医薬部外品のパーマネント・ウェーブ用剤や化粧品の洗い流すヘアセット料として販売されている商品を頭髪以外の部位に用いることは認められていない。

(*3)顕微 FT-IR 法
顕微 FT-IR 法とは、顕微フーリエ変換赤外分光(Fourier Transform-Infrared Spectroscopy)法のことで、化合物の構造推定を行う分析手法である。微小領域の分析において有用であり、各種工業製品の品質管理や科学捜査、生物医学領域など、様々な分野において活用されている。

(*4)大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最⾼性能の放射光を⽣み出すことができる理化学研究所の施設。SPring-8の名前は Super Photon ring-8 GeV(80 億電⼦ボルト) に由来。放射光とは、電⼦を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁⽯によって進⾏⽅向を曲げた時に発⽣する強⼒な電磁波のこと。SPring-8 では、この放射光を⽤いてナノテクノロジー・バイオテクノロジー・産業利⽤まで幅広い研究が⾏われている。
SPring-8 ホームページを参照(http://www.spring8.or.jp/ja/

(*5) BL43IR
SPring-8において、放射光を用いて実験を行うための設備を「ビームライン」(以下BL)と呼ぶ。BL43IRはBLのうちのひとつであり、 高輝度な赤外光によって、一般的な顕微FT-IRでは達成できない微小領域・微小試料の測定・解析を可能としている。本研究の一部は、(公財)高輝度科学研究センターの産業利用一般課題2023A1463として、本BLを用いて行われた成果である。

(*6) アミド結合
タンパク質は多数のアミノ酸が結合してつながることで構成されており、アミノ酸同士をつなぐ結合をアミド結合という。

引用元:PR TIMES

関連記事一覧