アゾポリマーへのスキルミオン構造のダイレクトインプリントに成功! -物質へのトポロジカルな準粒子の生成、消滅、操作への第一歩-

プレスリリース要約

千葉大学と他大学の研究者らは、アゾポリマーに光スキルミオンを照射することで、その偏光の渦構造を物質に転写できることを実証した。この成果は、光スキルミオンが物質中で生成、消滅、操作できる可能性を示し、新たな物性物理学の知見を提供するものである。この研究は、2024年4月4日に学術誌APL photonicsに掲載された。
 千葉大学分子キラリティー研究センターの尾松孝茂教授、宮本克彦教授、A Srinivasa Rao特任講師、千葉大学大学院融合理工学府の田村理人さん、津田和樹さん、Fanny Getzlaffさん、インド工科大学ビライ校のPraveen Kumar助教授、デューク大学のNatalia M. Litchinitser教授らの共同研究グループは、アゾポリマー(注1)に光の準粒子状態と呼ばれる光スキルミオン(注2)を照射することで、光スキルミオンの偏光の渦構造(スキルミオン構造)を物質に直接転写できることを実証しました。スキルミオン構造が転写されたアゾポリマーの表面には、波長よりも大きな深さ(約600nm)の凹凸構造の上に、偏光の垂直方向に沿ったサブ波長スケールのリップル構造(深さは数10ナノメートル)を持つ表面レリーフが刻まれています。この結果は、スキルミオンのように、物質の形や配置を変えてもその性質が変らないトポロジカル物質に保護され安定した準粒子を、さまざまな物質中で光によって生成、消滅、操作できる可能性を実証し、物性物理学の新たな知見を与えるものです。

 本研究成果は、2024年4月4日(現地時間)に学術誌APL photonicsにてオンライン掲載されました。

  • 研究の背景

 近年、デジタルカメラやUSBフラッシュメモリなどに使われている、電源を切ってもデータが失われない不揮発メモリのキャリアとしてスキルミオンが注目されています。スキルミオンは、その渦構造が非常に安定しており准粒子としてみなせるため、物性物理学などの分野でも注目を集めています。

波面や偏光が空間的に制御された光渦(注3)や偏光渦(注4)などが、光トラッピングや量子通信、超解像度顕微鏡などの幅広い分野で活用されていますが、近年、光渦や偏光渦を超えた新しい光として、光の準粒子「光スキルミオン」が実証されました。

 光スキルミオンとは、電子のスピンの代わりに右回りおよび左回り円偏光の線形結合で与えられる光のすべての偏光状態を2次元に投影した偏光の渦構造を指します。渦の構造に対応してNéel型を始め、さまざまな種類の光スキルミオンがありますが、光スキルミオンの渦構造は外部の乱れや干渉に対して比較的強い安定性があるため、自由空間を長距離伝播してもその構造が保持されます。そのため、次世代の自由空間光通信のキャリアとして応用が期待されています。

 スキルミオンと強い類似性を持つ光スキルミオンは、物質中のスキルミオンを生成・消滅・輸送できる可能性が示唆されていますが、現状では、光スキルミオンによる物質操作の研究報告はありません。

 本研究チームは、強い偏光感受性を示すアゾポリマーに光スキルミオンを集光照射することで、光スキルミオンの偏光の渦構造を転写することを試みました。この研究は、光スキルミオンによる物質操作の第一歩に位置付けられます。

  • 研究の成果

 光スキルミオンは右回り円偏光であるガウシアンビーム(注5)と左回り円偏光である光渦を空間的に重ね合わせることで発生できます。本研究では、波長532ナノメートルの連続波レーザーと液晶空間光変調器(SLM)と1/4波長板を用いることで、光スキルミオンを発生させました。

 Néel型の光スキルミオンを一例として示します(図1)。偏光子を回転させると偏光子の回転方向に対応して半月状の光が回転することから、偏光の渦構造を持つ光スキルミオンが発生していることが分かります。

 ガラス基板上に成膜したアゾポリマー薄膜に、発生した光スキルミオンを集光照射(50マイクロワット、15秒間、ビーム直径10マイクロメートル)しました。その結果、アゾポリマー薄膜の表面には、偏光の渦構造を反映した半月状(あるいは放射状)の凹凸構造(高さ約600ナノメートル)の上に偏光の垂直方向に沿った波長程度の間隔(約450ナノメートル)のリップル構造(深さ約40ナノメートル)を持つ表面レリーフが形成されました(図2)。波長スケールの凹凸があっても偏光の渦構造が保持されて記録されていることから、光スキルミオンの外部の干渉に対する安定性を示します。またリップル構造は、アゾポリマーの分子間相互作用により、自己組織化する特性を示しています。

  • 研究者のコメント

 光スキルミオンの偏光の渦構造を物質に直接転写できることを初めて実証した本研究成果は、光スキルミオンによって物質中のスキルミオンを生成・消滅・輸送できる可能性を示唆するものです。これは、光スキルミオンによる物質操作の第一歩に位置付けられます。今回の研究では、強い偏光感受性を示すアゾポリマーを用いましたが、同様の実験は液晶などの物質でも可能であると考えられます。

 本研究で形成された表面レリーフは、次世代高密度光データストレージにも応用できる可能性があります。今後は、光の3次元準粒子である光ホプフィオンなどを用いれば、超高密度3次元光データストレージの実証も可能であると考えます。

 

  • 用語解説

注1) アゾポリマー:アゾベンゼン分子を含む高分子。可視光を照射すると光異性化反応を起こし、光の輻射力(光のエネルギーの流れに沿って物質に働く力)によって質量移動を起こす。その結果、照射光の偏光や波面を反映したユニークな表面構造(表面レリーフ)が形成できる。

注2)光スキルミオン:右回り及び左回り円偏光を北極と南極に配置したポアンカレ球上の球面座標で表現できるすべての偏光状態を2次元に投影した光。光断面には偏光の渦構造を有する。

注3)光渦:螺旋状の波面(螺旋波面)を示す光。光渦の波面中央部には位相の決まらない特異点(暗点)があるため、光渦は円環強度分布をもち、1波長あたりの螺旋波面の巻き数に対して軌道角運動量を有する。

注4)偏光渦:レーザービーム断面内の偏光が光軸に対して半径方向(ラジアル偏光)あるいは周回方向(アジマス偏光)に沿って軸対称に偏光した光。

注5)ガウシアンビーム: レーザーの最も基本的な横モードで、ヘルムホルツ方程式の近軸固有解として与えられる。ガウス分布状の強度分布を持つ。

■ 論文情報

・ 論文タイトル:Direct imprint of optical skyrmions in azopolymers as photo-induced relief structures

・ 著者:Rihito Tamura, Praveen Kumar, A Srinivasa Rao, Kazuki Tsuda, Fanny Getzlaff, Katsuhiko Miyamoto, Natalia M. Litchinitser, Takashige Omatsu

・ 雑誌名:APL Photonics

・ DOI:https://doi.org/10.1063/5.0192239

引用元:PR TIMES

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