B型肝炎の新薬開発に成功!新しい機序の治療法の開発は、いよいよ治験準備段階へ
プレスリリース要約
熊本大学大学院生命科学研究部の田中靖人教授、渡邊丈久助教、林佐奈衣特任助教らの研究チームは、血液中のHBs抗原及びB型肝炎ウイルス(HBV)の複製を抑制する、強力で経口投与可能な新たな低分子化合物「SAG-524」を開発しました。この化合物は、HBVのRNAを不安定化させることによって、ウイルスのDNA及び表面抗原(HBs抗原)の量を大幅に低減させることができます。また、経口投与が可能であり、マウス・サルを用いた安全性試験では明らかな毒性は認めませんでした。
B型慢性肝炎の標準治療である核酸アナログ製剤は、HBVの設計図であるHBV-DNAを強力に減少させますが、機能的治癒とよばれB型肝炎の治療目標である血液中HBs抗原の消失への寄与は限られていました。
今回の新たな化合物発見により、B型慢性肝炎の機能的治癒への道が開かれることが期待されます。
本研究成果は、2024年2月5日付で科学雑誌「Journal of Gastroenterology」(2024年4月号)に掲載されました。本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)肝炎等克服実用化研究事業「実用化に向けたB型肝炎新規治療薬の開発」の支援を受けて実施したものです。
【今後の展開】
機能的治癒を目指し開発されたSAG-524は、現在臨床試験に向けた準備が進んでおり、さらに核酸アナログ製剤との併用による経口2剤併用療法など新しい治療法の開発も並行して進んでおり、B型肝炎治療の新しい選択肢として期待されています。今後さらに研究が発展し機能的治癒への道が開かれることが期待されます。
【用語解説】
※1 HBV(B型肝炎ウイルス)
肝臓に感染し、急性及び慢性の肝炎を引き起こすことがあるDNAウイルス。一度感染すると完全に排除することが難しく、肝硬変や肝細胞癌の主要な原因の一つとなっている。
※2 HBs抗原(B型肝炎表面抗原, HBsAg)
HBs抗原は、HBVの表面に存在する抗原で、B型肝炎の病勢を示す臨床的に重要なウイルスマーカー。
※3 RNA不安定化
生物を構成する蛋白の合成に必要なRNA分子の分解を促進することにより、細胞内のRNAの量を調節し、その機能を制御する重要な機構。
【論文情報】
論文名:A novel, small anti-HBV compound reduces HBsAg and HBV DNA by destabilizing HBV RNA
著者(いずれも熊本大学大学院生命科学研究部消化器内科所属)
渡邊丈久、林佐奈衣、Yan Zhaoyu、稲田浩気、長岡克弥、立山雅邦、田中靖人(責任著者)
掲載誌:Journal of Gastroenterology. 2024 Apr;59(4):315-328. doi: Epub 2024 Feb 5.
doi:10.1007/s00535-023-02070-y.
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00535-023-02070-y
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https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20240412
引用元:PR TIMES